待機時間(手待ち時間)の定め

待機時間とは

『休憩時間は原則として「管理監督下から離れ自由になる時間」であり、「それ以外の時間(=待機時間も含む)」は労働時間とすべきである。』

書き出しからいきなり結論をまとめました。

待機時間は法律上の定義が曖昧で、残業代請求などの訴訟や裁判において大きな争点になります。
従業員(労働者)は「拘束時間中なんだから給料はもらえるだろう」となり、
会社側(使用者)は「何もしてないんだから、給料は出さない」となって、両者の意見は真っ向から対立します。

この対立はブラック企業のみならず、有名企業にも起こるようで、待機時間をもとにした未払い賃金請求訴訟が数多く起こされています。

労働時間の定め

と、重複する部分もありますが、私が在籍していたB運輸でも時間の扱いは争点でしたので、その時の論点や裁判の判例を説明してみます。

待機時間について掘り下げる前に、まず休憩時間の労働基準法による定義を見てみます。

労働基準法第34条(wiki)

この労働基準法第34条は休憩時間を定義するもので、条文に

「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」(第1項)

「使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない」(第3項)

とあります。

更に、厚生労働事務次官ご通達で

労働基準法の施行に関する件(昭和22913日 発基17号 )

というものがあり、一見するだけでも読むのがうんざりする内容ですが、この中に

「休憩時間とは単に作業に従事しない手持時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されて居る時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと」(法第三十四条関係 一)

とされています。

このように休憩時間とは、「労働者が労働の義務から解放されて、自分の意思で自由に利用できる、ある程度まとまった時間」となります。

運送業における待機時間の扱い

トラック運送の仕事では、この「単に作業に従事しない手持時間(待機時間や手待ち時間とも言う)」は、日常的にあります。

荷卸の為の順番待ち、出荷準備が出来てない為の荷積み待ち、配車が決まるまでの指示待ちなど。

30分程度はざらにあり、酷いときには5、6時間なんて事もありました。

そんな状況を鑑みてか、国土交通省から貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正が発表されました。

荷待ち時間の記録を義務化

簡単に説明すると、「30分以上の待機時間を記録して、そのような業務を発生させている荷主に対して注意勧告することで、運賃の適正化やドライバーの長時間勤務軽減を図る」という働きです。

たしかにこの改正案で無茶な荷主に対する注意喚起を起こせる可能性は高まりましたが、運送会社が従業員に対して意図的におこなっている「待機時間を休憩とさせる」指示については対応しきれないかなと思います。

ブラック企業B運輸の場合

私が在籍していたB運輸では、待機時間=休憩と記入することが原則でした。
そうすることで相対的に残業時間を減らし、行政へのクリーンな経営アピールと人件費削減としていたのです。

勿論従業員にとってはたまったもんじゃありませんでしたが、下手に反発や抗議をしてもその後に行われる、運賃が低く歩合率の悪い仕事や、他よりきつい仕事内容といった、見せしめのような配車を組まれるのを恐れて大人しく従ってる状態でしたね。

B運輸が請け負っている仕事の中で待機時間が発生する割合は、一日あたり平均すると2~3時間くらいでした。内容によっては5時間を超える待機時間が発生することもあり、この時間が全て無給とされる場合もありました。

このような状況を、残業代請求を売りにしている弁護士に相談したところ返ってきた答えは、「これなら確実に取り返せますよ。」という言葉でした。

それぞれ積み込み場所、納品場所によって待機時間が起こる理由は違ってましたが、

  • 製品が出荷される、又は荷卸しの順番が来るまでその場所を離れられない
  • 指示があれば直ぐに作業に取り掛かれる状態にある

というポイントから、労働から離れ自由に利用できる休憩時間にはあたらず、労働時間だとみなされるということです。

裁判判例

ここで簡単に一つの裁判事例を紹介します。

大星ビル管理事件:1993年6月17日

  • ビル設備の保守業務に従事する不動産管理受託会社の従業員が、会社に対して割増賃金の未払いがあるとして訴訟を起こす。
  • 内容は、会社が休憩時間として規定する八時間の仮眠時間も、労働からの解放が保障されていない実態があるから、労働時間として賃金の支給を求める。
  • 判決は、夜間に泊り込みで設備の保守等に従事することが管理請負契約であり、仮眠の場所を特定されて電話対応や警報に備えることが必要なため、例え八時間まるごと睡眠を取れたとしても指揮監督下にある時間であるとして、会社に対して賃金の支払いを命じる。
  • 就業規則で休憩時間と規定されていても、労働者が自由に利用できる時間でなければ、労働時間とされて賃金支給の対象になる場合がある。

参照リンク:大星ビル管理事件(全基連HP)

この裁判での注目点は、本来休憩時間だった八時間もの仮眠時間を労働時間と認めさせたことでしょう。
また待機時間という点においても、原文の中で

“現実に労務を提供している時間だけではなく、現実に労務に従事していなくても使用者の指揮監督下にある時間(いわゆる手待時間)であれば、たとえこれが就業規則等で休憩時間または仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となるというべきである。”(以上、引用)

と明記されており、指揮監督の下であると認められれば労働時間といえるようです。

待機時間(手待ち時間)のまとめ

  • 待機時間(手待ち時間)は、監督者の指揮命令下にあって、指示があれば直ぐに仕事に取り掛かれる状態を指す
  • 休憩時間は労働者の権利として、監督者の指揮命令下から離れ労働から離れることを保障された時間であり、手待ち時間は含まれない

休憩時間も待機時間も明確に定められています。

しかし、個々の事情で法の解釈が変わってくる場合もあるでしょうから、専門家に相談してみましょう。

参考

労働基準法 第4章 32条


 

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